桃色アルバム
「あぁ・・・」

グラウンドの光景を見た伊藤は、思わず頭をおさえた。
中2にもなったという子供数人が、グラウンドを貸しきっておにごっこをしている。
しかも、その中には自分のクラスの間宮、川嶋がはいっていた。

(よりによって、あの2人がどうして・・・)

川嶋は成績優秀な自慢の生徒。
間宮は、おとなしくて言うことをよく聞く良い生徒・・・だったはずだ。


教師たちはあきれた顔で、グラウンドにしきりに声を投げかけている。
伊藤も、一歩前に進み出た。

そのとき。

「いいじゃないですか」

後ろから、声がした。
振り向くと、生徒指導の高木がにこにこしてグラウンドを見つめている。

「べつに、子供たちが休み時間に何をしたっていいじゃないですか」

「ですが、高木先生・・あの生徒たちだけでグラウンドを使うというのは、多少の問題があるのではと・・・・・」
「そうですよ。グラウンドを使いたい子がほかにもいるかもしれないじゃないですか」

「あら、私には観覧している生徒たちも楽しそうに見えますけどね」

その高木の一言にグッと教師たちがつまる。

「生徒たちにとって休み時間は、ゆいいつ心を開放できる時間なんです。そのくらい、楽しませてあげたらどうですか?」

そう言うと、しぶしぶというふうに教師たちが職員室へともどっていった。


高木は、おだやかな表情で、くるくると走り回るケイタたちを見ていた。

「ほんとうに楽しそうね。あんな笑顔を見るのは何年ぶりかしら。ねえ?」

そばにいた伊藤を振り返ると、伊藤はすこしはにかみながら笑った。
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