ちょっと、ひと息つきませんか?
 「20代半ばで大阪に来て、友達もなく一人で今まで生きて来て、彼氏ができても今の立ち位置や人間関係が変わってしまうのを恐れて心の中で距離を取っているんです。けど、彼が私の中の下らない意地やプライドを壊してくれたら、本当に同じ目線で立てると思うんです。ううん、本当は好きな人の後ろを付いていくっていうのが私の夢なんです。その夢を叶えて欲しい。
……そう思っています」
 「ええ夢やんー」
 「でも、叶うかどうか…彼、臆病なんでー」
 「せやったら、あいつに聴いてみたら?」
 「 ? 」
 店の外では、キョロキョロと一人の線の細いスーツ姿の若い男が窓越しに伺うことができた。マキコの言う通りの男性であった。グレーのスーツ細身にフィットしてスタイルの良さを伺えるが、猫背で童顔とも言える顔を顎まで伸びているくせ毛の髪で覆われていることから、冬には場違いな梅雨のじめじめっとした湿気を身体全体に浴びているようだった。
 「あの男(こ)か?」
 「はい……」
 マキコは、なぜ今そこにいるのかという表情で窓を見つめている。
 「ほな、もう、あれこれ悩む必要ないやん。今から聴きに行きー」
 「え?」
 「彼、待ってんでー」
 「……はい‼」
 そう返事をして、マキコはいそいそとバッグとコートを持って
 「あの、お代ー」
 「300円になります」
 「え?いや、あの何杯も淹れ直してもらったのに-」
 「ええって。おっちゃんの奢りや」
 「……」
 マキコは、頭をおもいっきり下げ、きっちりコーヒー一杯分の硬貨を置き店を後にした。

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