半分のキモチ
降りるはずの駅から何駅か過ぎてから、


「行きたい所ある?」

「ない、かな……」

「じゃあ、海……海、行かねー?」

「海?」


かっちゃんが私から窓の外へ視線を向けた。
走る窓から海が見えた。


「体調悪くねーなら、天気も良いし」

「……」

「いや、体調が悪いなら無理にって訳じゃないし、このまま電車に乗ってても良いし」

「良いよ……海、行こう」


かっちゃんは電車から降りると「ん~」と背伸びをして「海ってあっちの方だったよな」とさっき見た方角を指差した。


「……多分、」

「遠そうじゃなかったし、歩くか」

「うん」

「もう、夏だな……」

「そう……だね」


何の脈略もない会話。
海の方角から吹いて来る少し塩の匂いに、水分を含んだあたたかい風。


いつの間にかあの日と同じように、私は自分の足元だけ見て歩いていた。


あの日を思い出すと、
あの日の気持ちも思い出す。


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