この手を離さない
恐る恐るベッドサイドに近づくと、光輝はゆっくりと手を挙げた。



その苦しそうな表情から察するに、とても会話なんかできる状態ではなさそうだ。



「光輝、しゃべらなくていいから聞いてね。理沙達から伝言預かって来たよ。あんまり心配かけるなって」



点滴を受けているところを見ると、当然煮物などもってのほかだろう。



タッパーの入った紙袋を鞄の奥にしまった。



「未央も橋田先輩もすごく心配してたよ。さっさとこんな怪我なんか治しなさいよ。ねえ、光輝ママ?」



「本当よ。あんまりビックリさせないで欲しいわよね。だいたい、病院に行った帰りにまた病院に担ぎ込まれるなんてドジよねー」



光輝が口をきけないのをいいことに、2人で言いたい放題。



しかし、気持ちは裏腹で私の心は弾んだものではなかった。



苦しそうにしていたくせに、未央の話をした時だけ光輝の表情が和らいだのを見逃さなかったから。



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