この手を離さない
病室前には光輝パパがうなだれてしゃがみこんでいた。



痛ましい姿にかける言葉が見つからなくて、黙って目をそらし病室のドアに手をかけた。



「あっ、奈美ちゃん今は入っちゃだめ……」



気づいた光輝パパが慌てて止めるのも聞かず、病室のドアを力一杯開けた。



「入って来るなって言ってんだろ!」



「光輝……」




息を切らし、大好きな人の名前を呼んだ。



「奈美……」



光輝は目を丸くしている。



「ほら奈美ちゃん、今は1人にしておいてやろう」



私の腕を引き病室の外に連れ出そうとする光輝パパを振り払おうとしたその時、



「父さん、いいよ。しばらく奈美と話をさせて。それから申し訳ないけど、今日は母さん連れて帰ってくれないかな」



光輝は私の入室を許可した。



光輝パパは明らかに驚いたものの、



「そうか、分かった」



何かを感じ取ったように落ち着いた様子で頷いた。


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