ソルト

「あんなこと言われなかったら、まだ純粋に芽莉を好きでいられたかもしれない」


「…」

何も言えず黙ってた。

昇降口で和樹に向かって話す芽莉さんは幸せそうに見えた。


「和樹、そんな心配しなくても、今は芽莉さんの一番は和樹だと思うよ」

「そんなこと…」

「そうだよ」

呟いた和樹の言葉を止めるように言った。


「だって、そうじゃなきゃ、芽莉さんはあんなに楽しそうに笑ったりしないよ」


「…」


「もしまだお兄さんのことを諦めきれていないのなら、もっと早いうちに和樹の傍から離れていると思うよ」


暮れていく空。


向こうの方はもう藍錆色の空が広がっていた。

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