砂時計
「こんばんは」

瞼を閉じてから、どれくらい経っただろうか。彼の優しい声に、ハッとして起き上がる。

「元気にしてた?」

笑顔を見せる彼に、うん、と、大きくうなずいてみせた。

今日も、砂時計の赤い砂がサラサラと落ちていく……。モノクロームの世界で、それだけが唯一、鮮やかに色づいていた。

「よかった。オレはこの通り、すっかり痩せて……。びっくりしたんとちゃう? 別人、みたいやもんな」

もしかしたら彼は、忙しくて痩せたんやなくて、病気で痩せた?

「でも、もう大丈夫。これ以上、痩せることはないし」

彼から急に笑顔が消え、私を真っ直ぐにみつめる。

「闘いは、終わった」

闘い? 一体なにと闘ってたん? 忙しい日々との闘い? それとも……。

痩せた理由を知りたくて、口を開きかけたとき、砂時計の赤い砂がすべて落ちてしまった。


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