俺のことを好きにさせてやる
うずくまった私に降り注ぐ声。
ゆっくりと顔をあげると、
そこには目元がキリッとした男の人が立っていた。
「だれ…ですか、」
「人に聞く前に、お前が名乗れよ」
助けてやる、と言った彼は
てっきり優しいものだと思えば、キツい口調でそう返した。
「……りの、藍沢梨乃」
少しふてくされたようにそう言うと、
彼は口角をあげながらゆっくりと手を伸ばした。
「俺は、成瀬翔」
伸びてきた手の平が、そっと私の頬に触れた。
思わず目を見開いた私は、
そのまま彼を見つめた。
「しょ…う……」
「俺には、お前の心がわかるよ」
角度を変えた彼の顔が、
ゆっくりと近づいてくる。
ちゅ…、と唇に軽く触れると
彼はすぐに顔を離した。
「梨乃、俺のことを好きにさせてやる」
息が止まるほどの緊張が、
私のカラダを駆け巡った。