僕は君の右手になる

今日は何の話をしようか、と僕は柄にもなく胸を弾ませた。

窓から入る陽が優しく彼女を照らす。

「君の食べているフルーツサンドにはどんな曲があるの?」

おもむろに君は僕のフルーツサンドイッチを見て口を開いた。

……フルーツサンドの曲?意味がわからない。

彼女のよく分からない発言はいつもの事だ。

フルーツサンドの曲。甘いドルチェ。柔らかい曲調の曲が良く似合う。

今日のフルーツサンドはいちごと生クリームだけのシンプルなものだから、やたらテンポが揺れたりする曲とは合わない。

フルーツサンドは僕を幸せな気持ちにしてくれる。ホッとさせてくれるような、温かい気持ちにしてくれるような

──そう、安心感だ。包み込んでくれるような安心感がある。

そんな曲は無かったかな。

「そうだね、エルガーの愛の挨拶、かな」

少し優雅すぎる気もするけど、と僕は付け足した。

「本当に君は面白いことを言うのね」

彼女は堪えきれなかったかのように噴き出した。

「君流の、フルーツサンドを、愛の挨拶を私に食べさせて」

つまりは、食べたらピアノで僕なりの愛の挨拶を弾けと言うことだろう。

彼女が僕に、ピアノを弾いて、というのはこれが初めてだ。

弾かないの?と聞かれたり弾いてくれたら、と言われたことはあったけれど、

お願いされたのは初めてだった。

「僕は君に愛の挨拶なんてしないよ」

と僕は冗談交じりに返した。

「なに?私に愛はないって?」

彼女は頬をふくらませる。そしてまた笑い始めた。

「そうだね、私たちに愛はないね、私たちにあるのはピアノだもの」

彼女は笑いながら、僕にそう言った。
< 11 / 14 >

この作品をシェア

pagetop