僕は君の右手になる
今日は何の話をしようか、と僕は柄にもなく胸を弾ませた。
窓から入る陽が優しく彼女を照らす。
「君の食べているフルーツサンドにはどんな曲があるの?」
おもむろに君は僕のフルーツサンドイッチを見て口を開いた。
……フルーツサンドの曲?意味がわからない。
彼女のよく分からない発言はいつもの事だ。
フルーツサンドの曲。甘いドルチェ。柔らかい曲調の曲が良く似合う。
今日のフルーツサンドはいちごと生クリームだけのシンプルなものだから、やたらテンポが揺れたりする曲とは合わない。
フルーツサンドは僕を幸せな気持ちにしてくれる。ホッとさせてくれるような、温かい気持ちにしてくれるような
──そう、安心感だ。包み込んでくれるような安心感がある。
そんな曲は無かったかな。
「そうだね、エルガーの愛の挨拶、かな」
少し優雅すぎる気もするけど、と僕は付け足した。
「本当に君は面白いことを言うのね」
彼女は堪えきれなかったかのように噴き出した。
「君流の、フルーツサンドを、愛の挨拶を私に食べさせて」
つまりは、食べたらピアノで僕なりの愛の挨拶を弾けと言うことだろう。
彼女が僕に、ピアノを弾いて、というのはこれが初めてだ。
弾かないの?と聞かれたり弾いてくれたら、と言われたことはあったけれど、
お願いされたのは初めてだった。
「僕は君に愛の挨拶なんてしないよ」
と僕は冗談交じりに返した。
「なに?私に愛はないって?」
彼女は頬をふくらませる。そしてまた笑い始めた。
「そうだね、私たちに愛はないね、私たちにあるのはピアノだもの」
彼女は笑いながら、僕にそう言った。