僕は君の右手になる
次の日の昼休み、僕はあの音楽室に行った。
昼食は食べなかった。僕の心はそれどころではなかったから。
緊張しながらもドアを開けると、昨日の女の子がピアノを弾き始めようとしてる。
昨日ははっきり見えなかったが、ぱっちりした二重の目、色の白い肌、ふわふわした黒髪の女の子だ。
彼女はこちらを向いて固まっていたが、しばらくして少しだけ笑った。
「こんにちは」
と、挨拶をされたので慌てて僕はこんにちは、と返した。
「ピアノを弾きにきたの?」
「君のピアノを聴きに来たんだ」
僕は素直に答えた。ごまかしても仕方が無い。
彼女は目を丸くした。くりっとした目がまん丸になっている。
「どうして?」
彼女がなんの理由を問うているのかは分かったが、答えられなかった。
どうして僕はこんなに気になっているのだろう。
何故ご飯を食べることさえ忘れてここに足を運んだのだろう。
僕自身疑問だらけだ。
「分からないけどとても気になったんだ」
気になった、これは本当のことだ。嘘でも何でもない。
そうだ、僕はメロディだけのピアノが気になっていたのだ。
「どうして君は、メロディしか」
弾かないのか、そう言いかけて僕は口を噤んだ。
ふと見た彼女の右腕に違和感を覚えた。