星の街に君と私
寒さが風にのって身にしみ込んで来るようになった頃、私はいつものように音楽室の前に座り込んでいた。自前のブランケットを肩に羽織り、目を閉じて心に旋律を刻み込む。
曲と曲の少しの間でさえ、1曲よりも長く感じた。誰もいない廊下。たまに聞こえてくる、放課後の音たち。生徒の騒がしさや、部活動の掛け声。本来なら楽しさや一生懸命なのが伝わってくるのに、今日はより一層、騒音に感じた。

返さなきゃ。

ちゃんと言わなきゃ。


この気持ちが、音に集中させることを許してはくれなかった。
片付けの音が聞こえ始めた。

片付けの音が止んだと思ったら、人の気配がきえてしまった。足音もなにも聞こえない。
音楽室廊下という、シチュエーションもあり、背筋がいつの間にかに伸びていた。
無機質な寂しさが足から伝わってくる。

準備室にいるのかもしれない。そう思い立って、気持ちを固めた。

ドアの前に立った。
よし、いける。
いかないと。


ゆっくりとドアノブに手を掛ける。
ドアノブのひんやりとした冷たさと、緊張で、手は人間と思えないほどにまで温度が下がっている気がした。

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