【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
10 心技体のバランス
体調が悪いと文章も良くない。
前にインフルエンザで休んでいたタイミングで執筆をしていたことがあるが、あとから気に入らず書き直したことがある。
心技体。
言わずもがなスポーツ、とりわけ格闘技で出てくる単語である。
およそ文芸、武芸に限らず芸は心技体であるという考え方をしている。
感性という心、文章という技、書き続ける体があれば、誰でもある程度までは書けるというのが小説である。
筆者は少なくともそう思う。
しかし。
分岐点はそれを忍耐強く何年も書き続けられるか、である。
鍛練あって、文章は初めて上手くなる。
まれに天才はいるが、しかし小説を書くのは技術で、才能ではない。
そうした、多分に才能の出現を俟(ま)つようなことは、まるで近世までの武芸や特殊技能のようなものである。
ともあれ。
心技体が揃ったとき、名作は生まれる。
でなければ。
テクノロジーばかりが発達して、使う側の人間が幼稚であることを露呈してしまう。
こういう思想で小説を書いている者も珍しいであろうが、実際そうした意識で書いていると案外スラスラ書けてくる。
筆者は天才ではない。
仮に天才なら、もっと早く世に認められているはずである。
それを傲慢と取るか、あるいは世間の歪みと取るかは、後世の歴史家の暇話に任せることとしよう。