【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
17 書きたいものと読まれるもの
いろんなジャンルを書くと分かるのが、
「自分が書きたい小説と、求められている小説は違う」
という事実である。
個人的には歴史物や紀伝、あるいはノンフィクションに近いものを好んで書きたいという癖がある。
実際は。
傾向を見て書いたのが『賀茂の流れに』であり、リクエストに応えたのが『道頓堀ディテクティヴ』であり、いちばん読者の方々が多いのは『穹窿』である。
このデータを見たとき、つまりは『穹窿』や『道頓堀ディテクティヴ』のような作品を書けば当たるという理窟になるはずである。
しかし。
それは読者の人々に対して失礼な話のような気がする。
読む側も書く側も楽しめるようにしたいという希求があるからである。
当たるから書く、ではずいぶん金銭目当てな気がして、何とも嫌らしいように感じられてならない。
それが悪いとは言わないが、大事なのは時間を割いて読んでくれる人々に、楽しめる時間を提供することのように思われる。