【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
18 語彙は増やせ
書くときに気を付けていることがある。
なるだけ同じ単語を何度も使わないようにする、ということである。
似たような単語があれば探し、表現に困ったら逆説で描き、婉曲な言い回しが要るときは、ときに漢文の読み下しなんかも利用する。
ありとあらゆる手を使わなければ、何か負けてしまうように思われるからである。
ただの強迫観念かも分からないが、例えば「好き」とか「愛してる」という表現を、なるだけ恋愛小説に使わないようにする…という意識付けもしている。
心理より情景を描くほうが、伝わるかも知れないからである。
むしろ。
ストーリーを追う上で心理を描くのは、ときに邪魔に感じることがあって、光景を描くだけでも伝わることはある、と思うのである。
例えば。
単に「寒い」と書くより、「夜中の吹雪は下から舞い上がって、風もやむことがない」とやったほうが、充分寒く感じるように思うのである。
個人的な感懐かも分からないが、少なくとも筆者はそう考えている。
こういう見直しのほうが、実は手間がかかっていたりする。
世の中何がどこでどうか、分からないものであろう。