【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
3 ゴスロリの彼女
ふと『潮騒物語』で思い出した話。
作品に出てくるロリータ服のキャラクターは、実は体験談から来ている。
まだ小説を書く前の時期、付き合った彼女がそういう趣味の女の子で、
「実はね」
着てデートに来ていいかなと言うので、
「そんなの気にしないで、デートに着て来ればいいやないか」
ということで、それから約3年ばかり、毎回そういうデートで過ごした時期があった。
なかなか個性的な女の子で、天然な性格も面白い。
一時は結婚も考えたが、彼女の周りが反対しているのを漏れ聞いて、なるだけ気づかれないように縁遠くなるように仕向けて、傷つけないようにして別れた。
それからは会ってすらいないが、彼女にバイクのタンデムから免許まで取らせたのも、好きなように生きることを教えたのも、考えてみると筆者であった。
一方で。
筆者も彼女にビジュアル系のバンドの世界を教わったし、個性的な女の子と付き合う楽しさを教わったのも彼女である。
いわば。
それまでの筆者の女性の好みを、彼女は変えた訳である。
人間の嗜好を変えるというのは、なかなか出来るものではない。
まだ筆者は。
他人の嗜好を、変えられるほどにはなってない。
その点で。
どれだけ素晴らしい人であったかが、ヒシヒシ分かるのである。
仮に会う機会が出来たらば、
「モデルにした小説があるよ」
と伝えてみようと思う。
もっとも。
恥ずかしがり屋な面もあったから、嫌がるかもしれないが。