【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
4 女子アナの舞台裏
『穹窿』という長編を書いて発表してすぐの時期、
「蝶眠さんって女子アナと付き合ったことあるんですか?」
と、花屋にたまに来ていた、ラジオ局で働いているお客さんに訊かれたことがある。
が。
あいにくながら。
筆者の周りにそうした華々しい種族は存在しない。
では。
なんでテレビ局の裏側が書けたかというと、うちの花屋に一時期やたらと取材が来たことがあって、そのときの見聞が活きているからに過ぎない。
そのときの世間話をベースに、さまざまなリサーチをして書いたのが『穹窿』である。
ただ。
たまに今も、制作会社の方などから、
「蝶眠先生ってテレビマンだったんですか?」
と訊かれる。
が。
残念ながら就職はこれでも国家公務員で、店を開いて独立してからは自営である。
まるで縁がない。
しかし。
制作者しか知らないような撮影の舞台裏を書いたからか、
「ロケでいきなり来る場合もある」
などと言うと、
「そうでもしないと作るの大変なんです」
と返ってきたりする。
特に。
自ら取材してリード原稿を書いて、デスクにチェックしてもらいOKが出たら、そこでようやくオンエア…という内幕は、かなり生々しかったらしい。
「安く撮れていい数字を取る」
という発想も、手間を考えるとそうしたくなる理由も分からなくはない。
しかし。
小説であれ、テレビであれ、クオリティと結果を求めるなら必要なのは仕事量で、おのずと手間はかかる。
一見華やかな女子アナの世界も、決して楽ではないらしい。