【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
6 地図から見える世界
執筆前に必ず確認する作業がある。
一つは作品のタイトルがかぶっていないか、検索をかける。
この作業でボツになったプランも実はいくつかある。
次に人物名の検索。
歴史小説ならそこから時系列年表を作り、恋愛小説なら、名前がいかがわしげなものに使われてないか確認する。
これで何度か、苗字を変更する羽目になったキャラクターもある。
さらに。
検索ではなく地図を使って地理や等高線、路線図などかなり詳細に調べあげる。
仮に恋愛小説でも、バックが瞭然としているか否かで、作品のリアリティはかなり変わる。
例えば『賀茂の流れに』は京都が舞台に書かれてあるが、どういう景色か知らなければ、読んでも世界に入り込めない。
これをしっかりやってあると、仮に京都生まれの人が読んでも小説だと気づかず、リアルな恋愛として世界観に入ることができる。
なので実際に住んでいなくてもそこをやってあると、
「この人はうちの町をよく知っている」
となって、楽しんでいただける…ということになる。
現に。
前に『賀茂の流れに』を京都生まれの知り合いに読んでもらった時に、
「映像が浮かんできて、世界にすんなり入れた」
という声をもらって、ひそかに会心を得たこともある。
仮にも小説は「事実をちりばめて嘘の物語を作る」という考え方で筆者は書いているので、ちりばめる事実はなるだけ間違いがないほうが、いちいちうるさくならない。
何もしてないようで、こういう苦労もあるのである。