【エッセイ】『バックヤードの向こう側』
8 タイトルはこうして決まる
タイトルをつけるときに活用しているのは、類語や同義語の辞典である。
例えば。
『海の擾乱』は最初違うタイトルであったが、戦乱の時代であることから類語でひいてみると「擾乱」という単語が出てきた。
これは「擾」は騒ぐという意味でもあったので、それならとすんなり決まった。
今では『海の擾乱』で良かったと思う。
つけてみるものである。
また。
短編に『逢ひみての』というタイトルがあって、これは百人一首にある、
「逢ひ見ての後の心にくらぶれば昔はものを思はざりけり」
という和歌から採った。
タイトルの付け方はひとそれぞれであるが、個人的には長々しいタイトルより、短いタイトルで引き付けるほうが良いと感じるので、なるだけ短いタイトルにする傾向がある。
『穹窿』も大空という意味で、しかし古い漢語のほうが却って響きも新しく思えたのでつけた。
日本語は平仮名、カタカナなどのやまとことば、仏教伝来の古来からある漢語、大航海時代に来たポルトガルや英単語、またはフランス語やオランダ語など外国語単語の、計3種類を使用する、世界的にも稀な言語でもある。
この幅広さが日本の文学の懐の深さであり、他にはない特異性も持ち合わせる。
こうした中からタイトルを選び出すのは至難であり、しかし必ず的確な単語はあって、実に重宝する。
おそらくこれからも、類語辞典にはお世話になるであろう。