始まりは大嫌いから
*新婚生活編*


真冬は戸惑っていた。“新婚生活の淡白さ”に、だ。

それが見合いから半年後…11月が近くなった頃だ。

けれど見合いから挙式まで、なんと真冬は一度しか悠也に会っていない。式場も、衣装も、好きにして良いとだけ言って全て真冬に任せきり。ドレスも一から作れば良い、流れも好きに決めて良い、好きなだけ友人を呼べば良い…何でも“好きにして良い、真冬に任せる”だった。

マヌケな真冬だが結婚に対する憧れは人並みにあった。大好きな人と一緒に考えたプランで、小さくても幸せな結婚式をあげたかった。

けれど現実とは何とも辛いもの。

結局真冬は悠也の用意したウェディングプランナーと悠也の母親である静香に流される形で結婚式の流れを決めた。

“女優冬川 真白電撃結婚〜お相手は一ノ宮グループの次期社長”

“現代のシンデレラ冬川 真白 女優引退!”

そんな見出しが一体どれだけの雑誌、新聞に掲載されたか…本人ですら把握できていない。

結局、忙しい次期社長の嫁になったのだからと女優業を引退した。マンションの一室で二人で暮らすと言うから不規則な女優の仕事はしていられないときっぱり辞めたのだ。

けれども家事は全て家政婦がやってくれる。要するに真冬の出番はなかった。

ついでに言えばマンションの一室と言うから同じ空間で暮らすのかと思えばだいぶ違った。

玄関を入ると突き当たりにリビング。ここだけが共有スペースだった。リビングには扉が三つ。玄関へ続く廊下への扉、悠也のプライベートスペースへと続く扉、真冬のプライベートスペースへと続く扉、計三つ。それぞれ指紋認証のロックも付いている。

各プライベートスペースにはお風呂もトイレも寝室も全部ある。ちなみにプライベートスペースから外に出ることも可能だった。もはやシェアハウス状態だ。

これが新婚生活?

脅されての結婚とはいえ、大嫌いな相手との結婚とはいえ…真冬はきちんと覚悟を決めていた。演技ではない夫婦の夜を過ごし、忙しい夫のために尽くそうと思っていた。

幼馴染とはいえ、もはや他人に近い相手との結婚生活だ。真冬は歩み寄る努力をするつもりでいた。もしかしたら仲良くなれるかもしれないからだ。


ところが朝は真冬が起きる前に出かけてしまうし、夜は真冬が寝た後帰ってくる。LINEを入れても既読はつくものの返事は来ないし、帰ってくるのを待って起きていても早く寝ろと怒られる始末。

家の中は常に閑散としているし、家具は全てインテリアデザイナーの人が用意し、配置したもの。

もはや他人の家に放置されている気分でしかない彼女は新婚生活四日目にして新しい生活に疲れていた。

だから家政婦には自分の世話はしないでほしいと頼んだ。自分で食事を用意するし、自分で部屋を片付ける。世話をするなら悠也だけにしてほしいと頼んだ。結果、他人の家から通学するような苦痛から解放されたのは結婚してから初めて迎える週末の前日だった。

そして迎えた週末の朝、手際よくエッグベネディクト、シーザーサラダ、ヨーグルト、コーヒーを用意した真冬は一人寂しく朝食を食べていた。

そこに一週間ぶりに、夫となった悠也が姿を見せた。
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