始まりは大嫌いから

「じゃ。俺は部屋で仕事するから。うるさくすんなよ、まふ」

「ゆ!」

いつも通り、足りない文字を付け加えた後、ようやく悠也が言った言葉の意味を理解した真冬は息を飲んだ。

別に構ってもらおうとか、思っていたわけではない。だがこれではまるで仲良くなる糸口が見えてこない。

けれどそんなことを思っていると思われるのはなんだか悔しい。

仕方がないので真冬は顔をしかめて見せた。

「私も、宿題があるんです。うるさくなんてしません」

「なんだ、構ってほしくて不貞腐れたか。遊んでやろうか」

「あ、あそぶ…?」

真冬は怪訝そうに眉をひそめる。はっきり言って嫌な予感しかしない。

けれどツッコミどころはそこじゃないと真冬は改めた。

「構ってほしくなんてありません!どうぞどうぞ、放っておいてください!」

「つれない嫁だ」

「はいっ!?」

真冬は呆れた。会話がまるで続かない。どういうことだろう。なんで自分がつれないなどと言われるのか。

はっきり言って意味不明だ。

「素直に遊んで欲しいと言えば良いものを」

「む。仕事の邪魔をしてはいけないという配慮ですが」

「ふーん。で、お前は一日中宿題をするつもりか?」

「とんでもない。まず食器を片付けて、洗濯物を干して、部屋を掃除して、そして宿題です。頃合いを見計らってお夕食のおかずを買ってきます」

「意外と主婦らしいことをやるんだな。買い物に行く時は言え。車を出してやる」

「とんでもない。スーパーの広告を貰ってあるんです。すぐご近所のスーパーが安いんです」

「…主婦の鏡だな。荷物持ちくらいしてやる」

「いーえ。そんなことされたら“貸しひとつ”なんて言われかねませんから」

悠也は思わず苦い笑みを浮かべた。

彼とて、無理やり見合い結婚した挙句、新婚なのに放置していることを申し訳ないと思っていないわけではない。

だからせめて買い物に付き合おうと思えば、彼女は警戒を示すだけで素直に頷いてはくれない。

自分が過去にしてきたことの結果なので自業自得ではあるのだが。

「分かった。じゃあ俺が勝手についていくことにしよう」

「…はい?」

「俺が勝手についていって、俺が勝手に自分の食事の材料を持つのは自由だな?」

真冬は無言で口をパクパクして見せた。

確かに自由ではある。だがこんな風に協力的な男だったかと訊かれると絶対にそんなことなくて。

けれど良い反論も思いつかなければ断る理由もない。

苦手だし、好きではないけれど、夫婦になってしまったからには仲良くなる努力はしたいのだ。

こうして真冬は押し切られる形で一緒に買い物に行くことになった。
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