俺様上司は溺愛体質!?

「いやです……上げません」
「強情だな」

 声を抑えた男のささやき声というのはなんと色っぽいのだろう。頭のてっぺんから足元まで震えがくる。

(薄暗くてよかった……。)

 社内の廊下は節電でほぼ暗闇だ。煌々とついているのは非常灯の明かりくらいである。

 徐々に早まる鼓動に振り回されないよう、ちとせは顔を背けた。

「あの、真屋さん、ちょっと近すぎます……」
「そうか? だとしたらいつも素直なお前が素直にならないせいだろうな」

 まるでちとせが悪いと言わんばかりである。

 いくらなんでもそれはないと反論しようと顔を上げた瞬間、真屋時臣の唇が、ちとせの耳元に近づいた。

「ご褒美を、やろうか」

(ごほうびっ!?)

「とびきりのやつだ」

(とびっきり!)
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