俺様上司は溺愛体質!?

「お前の背中にキスしたい」

 それは突然の、痺れるほど甘やかな欲望の吐露だった。

「そこのテーブルにお前を後ろから押し付けて、全部に口付けたい」

 真屋時臣の腕に力がこもる。

「今までの俺ならきっと、このままお前を家に帰したりなんかしないだろう」
「……っ!」
「だけど抱いたら……俺はお前の中に眠る美しい何かを壊してしまう気がする」
「まや、さん……」
「酔っ払ったお前を拾った時とは違う……。そんな風にお前を扱いたくない」

 ちとせのことを欲しいと言いながら、抱けないと告げる。その声は真摯で偽りのかけらも感じられなかった。


「俺を屈服させてみせろよ」


 耳元で熱っぽい声が響く。


「可愛いだけの女じゃない、俺が参ったって降参するような女になって、そして気兼ねなく抱かせてくれ」

 からかうような、自嘲するような、そんな声に、ちとせの胸はいっぱいになる。

 はいともいいえともいえなかった。
 ただ胸が苦しくて、切ない。

 真屋時臣はようやく腕を離すと、振り返るちとせの額にかかる前髪を指先でかき分け、その額に小鳥のようなキスを落とした。
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