俺様上司は溺愛体質!?
〈Bastien〉からの帰りはタクシーだった。車はどうするのかと聞いたら、スタッフに後日届けてもらうらしい。
「真屋さん、今日はごちそうさまでした」
「ああ」
「そして部屋の前まで送ってくださって、ありがとうございます」
ドアノブに手をかけたが、名残惜しくてつい振り返ってしまう。
あれだけ幸せな時間を過ごしたはずなのに、もう少し、五分でもそばにいたいと思ってしまう。
そろそろ日付が変わる時間だ。
マンションの廊下はシンと静まり返っていて、まるでこの世界には自分と真屋時臣しかいないような気がした。
「……萩原、早く部屋に入れ。俺も修行僧じゃないんだ。そんな目で見られてたら、きつく締めたはずのネジが飛ぶ」
冗談めかして言ってはいるが、珍しく両手をポケットに入れた真屋時臣は困ったような笑みを浮かべていた。