俺様上司は溺愛体質!?

 まもなくしてするりと解けたネイビーのネクタイが膝の上に落ちる。一目で上等とわかる光沢に、その一瞬だけ頭が冷静になった。

「あ、ごめんなさい。ネクタイにファンデついちゃったみたい……」

 男の手がうつむいたちとせの手の中からネクタイを取り上げる。

「構わない。クリーニングに出す」
「ならいいけど……」

 それから顔を上げて、我が目を疑った。ピシリと体が凍りつく。

「えっ?」
「……なんだ」

 男はネクタイをポケットにねじ込み、ちとせに一瞥もよこさず袖口のシャツのボタンを留め始める。

 目の前にいたのは恐ろしく端正な男だった。
 背は高く、肩幅は広く、胸板は厚い。
 ほんの少しくせのある黒髪に、凛とした、意志の強そうな眼差しは涼しげだが、同時に熱っぽさも秘めている。
 何をしても人目をひく、周囲に人が集まってくる、そんなタイプの男だった。
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