俺様上司は溺愛体質!?
 だがちとせは目の前の男に見覚えがあった。

(ま、ま、ま……まさか……。)

 ドクン、ドクンと心臓が激しくなり始める。
 
 そして彼が、サイドボードに置いていたセルフレームの眼鏡をかけた瞬間、疑惑は残酷な真実となった。

(逃げよう。なかったことにしよう!)

 逃げると決めたちとせは誰よりも早かった。
 急いでシャツのボタンを留めカーディガンを羽織ると、床に転がっていた靴とバッグをつかみ、走り出していた。

「あ、お前……!」

 背後から声がしたが振り切って逃げた。なりふりなどかまっていられない。
 三十六計逃げるに如かずである。
 慌てていて気づかなかったがホテルはきちんとしたシティホテルで、玄関にちょうどタクシーが止まっていた。

(これは全部夢です!)

 タクシーに飛び乗りバッグを抱え込んだ。
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