俺様上司は溺愛体質!?
あれは今から十年前。
自分に価値があると思い込んでいた女子高生の頃。
ちとせは通学電車で乗り合わせる名も知らないサラリーマンに恋をした。
そして半年間の片思いの末、告白したのだ。
だが彼の返事はたった一言だった。
「俺はいい女としか付き合わないから」
そして彼は雑踏の中に消えてしまった。
呆然と彼の背中を見送るしかなかった。
能天気なちとせは、断られると思っていなかった。
それどころか好きな男からの拒絶の言葉に天地がひっくり返るほどのショックを受けてしまった。それこそ人生観が変わるほどの衝撃だった。
いい女云々というのは、ちとせに強烈なトラウマを残した。
そしてトラウマはふとした拍子で「ここにいるよ」と言わんばかりに心の奥底から顔をのぞかせ、ちとせを「ギャー!」と叫びたくなるような記憶で苦しめるのである。
(いい女って、なに? いやいやそんなこと考えてないで仕事しよう、仕事……ってかただの雑用だけどね。)