俺様上司は溺愛体質!?
 俄は基本的にマスターが一人でやっていて、忙しい時だけアルバイトの男子学生が入ることもある。

 内装はL字型のカウンターに六席、向かい合わせのソファー席があるだけ。壁にはマスターが好きらしいロックバンドのTシャツやアナログ盤レコードが飾られているが、BGMはない。賑やかではあるが時と場合によっては静かなBARにも様変わりする。

 駅周辺は再開発が進み近代的なビルが立ち並んでいるが、十五分も歩けば古き良き昭和の雰囲気が満載で、俄はそんな昭和レトロな街並みにしっくりと溶け込んでいた。




「あら、あんたたち久しぶりね」

 こんばんは、とドアを開けて入ってきたちとせと細布子を見て声をかけてきたのは、二軒隣のビルでナイトクラブを経営しているオネエの信治郎だ。

 オネエと言っても見た目はいたって普通の男性であり、店に出るときは和装をしていることもあってか、どこぞの呉服屋の若旦那に見えないこともない。しかも美形だ。その口調は完全にオネエのそれであるが。
 カウンターでトマトジュース片手にマスターである龍となにやら話し込んでいた。
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