俺様上司は溺愛体質!?

「信ちゃん、店はいいの?」

 信治郎を間に挟んでカウンターに座るちとせと細布子。

「いいのいいの。今日はびっくりするくらい閑古鳥だったから馬鹿らしくってしめてきちゃったわよ」

 ちとせの言葉に信治郎は肩をすくめる。

「来たら来たでここもそうだったのよ。不景気ねぇ」

 確かにいつも客で賑わっている俄だが、今日は珍しく一人だけだった。

「こんな夜もあるさ」

 龍はグラスを磨きながら頷いた。
 白いシャツを手首まできっちりボタンを留め着ている龍の両腕には、蛇が絡み付いているタトゥーが入っているらしい。
 らしいというのは噂で聞いただけで真偽のほどは誰も知らないからだ。

 古い友人の信治郎なら知っているかもしれないが、それを本人以外から確かめようという気にはならなかった。
 ここはちとせにとって居心地の良い場所である。その空気を壊す気にはならない。
 長身で彫りが深く、どこか物憂げで影がある素敵なBARのマスターが自分の話を聞いてくれる、それだけで十分日々のご褒美なのである。

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