俺様上司は溺愛体質!?
(いい匂い……あったかい……。)
「ニヤニヤするな、馬鹿。いい大人が自分の限界を知らなくてどうする。ガキか」
(ひどい……。)
「あー、だから……そんな顔するな」
少し投げやりで、困ったような声。
それから優しい指先がちとせの前髪をかきわける。
「お前は素直だな……。だからこういうことになるわけだが……。それにしたって二度も俺に膝枕させる女なんてお前くらいだぞ」
(二度……ひざまくら……?)
夢うつつの中、ちとせは目を開けようと必死になる。
けれど体は泥の中でもがいているようで、思い通りになってくれない。
「イラつくが結局放ってはおけない……俺も、お前みたいになれたら……また違ったかもしれんな」
(どうしたんですか。どうしてそんなに苦しそうなんですか? 私に話してください。私、あなたにそんな顔してもらいたくない……。)
思い出と現実の区別がつかない朦朧とする意識の中で、ちとせはまた思い出していた。
十年前のあの日のことを。