小話置き場
だけど彼に出会う前までの強い私には、もう戻れない気がしていた。
この人の前で、私はどうしても弱くなる。
甘えたくなって、ワガママになっていく自分が許せなかった。
怖い。先輩が好きでたまらなくて、どんどん溺れていく。息ができなくなっていく。
「………………」
涙を流しては拭って、ひっくひっくとしゃくりあげる私を、彼は自分のことのように苦しそうな顔をして見ていた。
彼の右手が私の左手を掴む。
空いた方の手が、私の目元を拭った。潤んで歪んでいた視界がクリアになって、私を一心に見つめる彼と目があった。
「……泣くなよ………」
そっと呟かれた低い声が、私の耳に届く。彼の顔が近づいて、優しくキスをされた。
唇が離れて、また目があったとき、愛しさが溢れた。ついでにまた涙が出た。