小話置き場
「……わかんない……」
「うん。僕もわからない。だけど僕は、君がいてくれたら安心するよ」
潤んだ目で彼を見つめた。先輩は愛おしげに目を細めて、私を見つめ返す。
「それとも、僕といてそんなに辛いなら、別れようか?」
「そ!それは嫌です」
とんでもないことを言われて、即座に否定する。おかげで涙引っ込んだ。
先輩はそんな私を見て、小さく笑った。
「でしょ。じゃあもう仕方ないよ」
彼の笑顔を見て、ささくれだった心が安らぐ。
仕方ない、か。よく考えてみたらその通りだ。
こんなもんどうしようもない。先輩と出会って、好きになってしまった時点で、私は私が変わるのを止めることは出来ないんだ。
「……だからさ、むやみに離れようとしないでよ」
ふいに、私の手をつかんでいた彼の手が離れた。
え、と思うと同時に、手が冷たくなっていく。彼は目を伏せて、ぽつりと言った。
「こっちは、君のこと離さないように必死だよ。嫌われるのも、不安にさせるのも怖い。何がきっかけで、君がいなくなるかわからないから」
彼の口から、弱気な言葉がこぼれる。
その目が再び私を見つめたとき、私の心臓が強く痛んだ。