小話置き場
周りには、作業に飽きてお喋りに夢中な連中も多いのに。
麗奈ちゃんくらいだよ、こんなに没頭してんの。周りの様子なんか、たぶんほとんど見えてなかったんだろう。
その姿を見てたら、やっぱり気が抜けた。
色んなものでずっしりと重くなっていた心が、ふわりと浮いた。
彼女は何も言わず、また作業を再開する。それを横目に見ながら、隣でふー、と長い息をついた。
落ち着くなあ、ほんと。
騒がしい教室の中を見回して、一旦考えることをやめた。少しの間、目を閉じた。
濁った空間。俺の隣だけが、まっさらだ。
ちゃぽん、と筆をバケツにつけた音が横から聞こえた。それが、やけに心地いい音に感じられた。
「....無理、しないでね」
ぽつりと、声がした。
ゆっくり目を開けて、視線を横に向ける。麗奈ちゃんの瞳は、下へ向かったままだった。
その手が筆を持って、白い線を引く。伸ばされた絵の具が、雲の形になっていく。俺はそれを、ぼうっと見つめていた。