小話置き場


周りには、作業に飽きてお喋りに夢中な連中も多いのに。


麗奈ちゃんくらいだよ、こんなに没頭してんの。周りの様子なんか、たぶんほとんど見えてなかったんだろう。



その姿を見てたら、やっぱり気が抜けた。

色んなものでずっしりと重くなっていた心が、ふわりと浮いた。


彼女は何も言わず、また作業を再開する。それを横目に見ながら、隣でふー、と長い息をついた。


落ち着くなあ、ほんと。


騒がしい教室の中を見回して、一旦考えることをやめた。少しの間、目を閉じた。


濁った空間。俺の隣だけが、まっさらだ。


ちゃぽん、と筆をバケツにつけた音が横から聞こえた。それが、やけに心地いい音に感じられた。



「....無理、しないでね」


ぽつりと、声がした。


ゆっくり目を開けて、視線を横に向ける。麗奈ちゃんの瞳は、下へ向かったままだった。


その手が筆を持って、白い線を引く。伸ばされた絵の具が、雲の形になっていく。俺はそれを、ぼうっと見つめていた。




< 61 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop