小話置き場
「……ねえ、慎ちゃん」
「なに?」
河川敷の向こうに、川が見える。
もうすぐ夏休みだ。夏祭りの日はこの河川敷に人がたくさん集まって、花火を見る。
川の上に、規則正しく円を描いた橋がかかっていて、そのずっと奥に青い海が見えた。
私は何か言おうと口を開いて、それからやめた。「なんでもない」と言って、彼の背中を見た。
無意識に手を伸ばして、彼の腰に腕を回す。次の瞬間、その肩がびくりと跳ねた。
「利乃!? ちょ、なに」
「えっごめ……わー!慎ちゃん前!前見て!!」
驚いた慎ちゃんが振り返っている間に自転車はぐらぐら揺れて、不安定になった。
怖くて思わず彼の腰に抱きつくと、慎ちゃんはさらに驚いてハンドルから手を離した。
「ひゃっ………」
ーーガシャーン。
派手な音を立てて、私達は自転車から落ちた。
タイヤがぐるぐると回る。河川敷の斜面に身体を投げ出されて、一瞬何が起こったかわからなかった。え、待って痛い。