小話置き場
「ちょっと慎ちゃんー!!」
顔を上げて、倒れてる慎ちゃんに文句を言う。
彼は苦笑いしながら「ごめん」と謝ってきた。ふたりして斜面を転がり落ちなかったことが幸運だった。
「いや、利乃がいきなり抱きついてくるからさぁ……」
「だ、抱きついてないし!掴まっただけだし!!」
「せめて予告して欲しかったなぁ……」
慎ちゃんは照れたようにはにかみながら、立ち上がる。その顔を見て、胸が痛くなった。
差し出された手に、そっと手を重ねる。
ずるい笑顔。
柔らかな目の細め方。
ぜんぶ私のものだって、知ってる。
「……慎ちゃんはさぁ」
「ん?」
金具がカシャンと音を立てる。彼が倒れた自転車をゆっくり起こした。
「………私が彼氏作ったら、どうする?」
ちらりと上目に、彼を見上げる。その目は私を、まっすぐに見ていた。
「……なに。好きな奴でもできたの」
「も、もしもの話」
「ふーん」
細められた彼の目。
でもさっきとは違う表情。
慎ちゃんはときどき、こういう目で私を見る。
いつからだろう。中学入ってからかな。
彼は最近、急に男の子の顔をするようになった。それにドキドキしてしまう自分にも、ちょっと困った。