小話置き場
「お姉さん、ひとり?今からカラオケ行くんだけど、どー?」
アーケード街をひとりで歩いていたら、酒臭い男が話しかけてくる。
「行かない。ウザいからあっち行って」
「えー。どうせ暇なんでしょ?」
「暇じゃない。今から彼氏と電話するから黙って」
しつこいナンパを振り払い、携帯を取り出してトモくんに電話をかけた。
聞き慣れたSNSアプリのコール音を背景に、毎日飽きもせず騒がしい夜の繁華街を歩きながら、空を見上げた。
ああ、こんなにも夏の夜が寂しい。
それを感じられるのは、あとどのくらいだろうか。
大学四年。
私のモラトリアム、青春時代がもうすぐ終わる。
この夏の愛おしさも、眩しさも、歳を経るにつれて色褪せて消えていく。