小話置き場



「…………もしもし、利乃ちゃん?」


何度目かのコール音のあと、トモくんが電話に出た。


「どーしたの」

「トモくん、今どこ?」

「家だけど……なんかイラついてんね」

「キモいナンパに絡まれた!ひとりで帰りたくないから迎えに来て」

「えー……今どこにいんの?」

「街の方。カラオケ館の近く」

「はいはい。行くから待ってな、お姫様」


ブツッと電話が切れた。

用が終わるとすぐ電話切るの、腹が立つ。やめてって言ってるのに。会ったら文句言ってやる。


携帯をしまって、私はまた歩き始めた。

カラオケ館の前から離れたら、きっとまたトモくんから電話がかかってくるだろう。

そんなことはお構いなしに歩いた。あの男は、なんだかんだいって私に振り回されるのが好きなのだ。


「………慎ちゃんは、どうだったかなあ」


ぽつりと呟く。

私の心には未だにあの頃の"慎ちゃん"が住み着いていて、消えてくれない。

あの日、みんなで慎ちゃんを助けに行ったあの夏の日。

救い出されたかったのは、私の方だったのかもしれない。



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