小話置き場


慎ちゃんと見上げた満点の星空が、今は何にも見えない。

毎晩のように見上げていたのに、もう空を見上げることすら忘れてしまいそう。


「あの夏に還りたい」


慎ちゃんと手を繋いで、
麗奈ちゃんと笑い合って、
トモくんと肩を並べて。

照りつける太陽の真下を、ひたすらに白い制服で駆けていた、あの夏。


「あの夏に還りたい」


夏が終わるのが怖い。

夏が来るたび、色褪せていく景色を見るのが怖い。


「大人になりたくないよ。トモくん」


きっと忘れてしまうのだろう。

今、ほんのわずかにでも感じられる、この夏の匂いも。

きっと、それがそれだと気づかないほどに、私の中から消えてしまうのだろう。


< 78 / 81 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop