小話置き場
慎ちゃんと見上げた満点の星空が、今は何にも見えない。
毎晩のように見上げていたのに、もう空を見上げることすら忘れてしまいそう。
「あの夏に還りたい」
慎ちゃんと手を繋いで、
麗奈ちゃんと笑い合って、
トモくんと肩を並べて。
照りつける太陽の真下を、ひたすらに白い制服で駆けていた、あの夏。
「あの夏に還りたい」
夏が終わるのが怖い。
夏が来るたび、色褪せていく景色を見るのが怖い。
「大人になりたくないよ。トモくん」
きっと忘れてしまうのだろう。
今、ほんのわずかにでも感じられる、この夏の匂いも。
きっと、それがそれだと気づかないほどに、私の中から消えてしまうのだろう。