小話置き場
「大人になっても、こうやってたまに泣けばいいよ。ふいに夏の存在を思い出したりして、夜の海にでも行けばいい」
言いながら、トモくんは私の目の前に立った。
夏の私をずっと見てきた彼の瞳には、あの頃と同じ青色が映っていた。
「車は俺が出してあげる。大人だからな、どんな遠くにだって行けるよ。行こうと思えば、海の果てだって行ける」
……海の果て。
想像してみたけど、なにも思いつかなかった。
どこまで遠くへ行けば、たどり着けるのだろう。
そもそも地球は丸いから、果てなんてない気がする。
それでも行こうとすれば、どこまでも行けるのだ。大人なら。
どこにも行けず、慎ちゃんと夜の海を眺めていた頃とは違う。