甘く苦い、毒牙に蝕まれて
「多崎……」
伏せていた顔を上げて、露骨に顔を顰めてやった。
でも多崎は、いつもと違った。
いっつも突っかかってくるくせに、今は少し戸惑ったような顔をしてる。
次の瞬間には、多崎の口から予想外の言葉が飛び出した。
「お前……顔色悪いけど、平気か?」
「はっ……?」
何こいつ、心配してんの?
こいつに心配される程、僕は具合が悪そうに見えるのか?
「あんたでも、人の心配する事あるんだ……」
「ほんっとに生意気だな。心配して損した気分」
「普通に考えてあんたに心配されても嬉しくないし」
「……ムカつく奴め」
つーか、こんなくだらないやり取りしてる場合じゃない。
さっさと教室戻ろ……。
そう思って歩き出そうとした時、再び多崎が口を開いた。
「……近藤、まさか幸希に何かされたわけじゃないよな?」