甘く苦い、毒牙に蝕まれて
足を止めて多崎を見た。
多崎は見るからに気まずそうな表情をしてた。
明らかに何かを知ってる顔だ。
「あんたは泉川の何を知ってるわけ?散々あいつに付き纏われてる僕には、知る権利はあるんじゃない?」
「薄々は気づいてるかもしれないけど……実はあいつ」
多崎が言いにくそうに切り出した時だった。
聞きなれた声が鮮明に耳に入ってきた。
その声を聞いた途端、無意識のうちに、
「まひろちゃん……」
その名前を、口にしてた。
廊下の向こうの方から、歩いてきているのは紛れもなくまひろちゃん。
楽しそうに笑ってる。
隣には当たり前みたいに、あいつがいる。
徐々に徐々に僕らの距離は縮まっていき、
「あ、真守くん……」
やっと僕の存在に気付いたまひろちゃんが足を止めた。