甘く苦い、毒牙に蝕まれて
僕の腕を掴んで離さないまま無言で歩く多崎。
屋上の前の踊り場でやっと手が離れて解放された。
「いきなり何すんだよ多崎、余計な事はしなくていいし」
「あんた、なんっにもわかってないな。あの状況じゃ、どう考えたってお前の方が悪いって思われるぞ?如月って結構優等生みたいだし」
そんくらい知ってる。
でも言わなきゃ気が済まなかった。
自分が十中八九悪者扱いされるってわかっていても……。
「つーか如月と一緒にいたのって笹川まひろだよな?なんかあの2人って本当は付き合ってるんじゃないかって一部じゃ噂になってんだよなぁ」
「……付き合ってなんかないし」
「ふーん。まさかとは思うけど、笹川まひろってあんたの彼女?」
「幼馴染」
「あんたに女子の幼馴染がいるとか、ありえねぇ」
「うるせーな……ま、もう10年の付き合いだけど」
一緒に過ごして10年。
10年って長いように思えて、実は意外と短いんだと痛感している。
「……あの2人、今は付き合ってないんだろうけど、でも笹川まひろは明らかに如月の事を」
「知ってるから、それくらい……」
「わかってるなら、あんたが今できる事は1つだ」