甘く苦い、毒牙に蝕まれて



どんなにたくさん人がいても、すぐに見つけてしまうのは、ある意味皮肉かもしれない。


大勢の人が行き交う中で、迷惑も顧みずに立ち止まって、僕はずっと凝視していた。



浴衣を着て、美味しそうに綿菓子を頬張るまひろちゃんと、それを微笑ましそうに見つめている如月。


2人は楽しそうにしながら、どんどんこっちに近づいてくる。




そして、すれ違っても、僕がいる事に気づかないまま2人は歩いていく。


こんなにたくさん人がいるんだから、僕に気づかないのも無理ない。




でも、まひろちゃんの目にはもう、僕なんか全く映ってないんだ。



「って、あれ……」

ここでようやく我に返り、多崎達の姿がない事に気づいた。



ヤバいな、あいつらと逸れた。

とりあえず携帯で連絡をしようとしたが、不運な事に携帯は充電がなく使えない状態だった。



< 166 / 200 >

この作品をシェア

pagetop