甘く苦い、毒牙に蝕まれて
どんなにたくさん人がいても、すぐに見つけてしまうのは、ある意味皮肉かもしれない。
大勢の人が行き交う中で、迷惑も顧みずに立ち止まって、僕はずっと凝視していた。
浴衣を着て、美味しそうに綿菓子を頬張るまひろちゃんと、それを微笑ましそうに見つめている如月。
2人は楽しそうにしながら、どんどんこっちに近づいてくる。
そして、すれ違っても、僕がいる事に気づかないまま2人は歩いていく。
こんなにたくさん人がいるんだから、僕に気づかないのも無理ない。
でも、まひろちゃんの目にはもう、僕なんか全く映ってないんだ。
「って、あれ……」
ここでようやく我に返り、多崎達の姿がない事に気づいた。
ヤバいな、あいつらと逸れた。
とりあえず携帯で連絡をしようとしたが、不運な事に携帯は充電がなく使えない状態だった。