甘く苦い、毒牙に蝕まれて
家に帰って、携帯を充電してから、先に家に帰ったとメールをすればいい。
帰ろうと、来た道を引き返そうとした時だった。
―グイッ
「ぅおっ!」
後ろから腕を強い力で引っ張られた。
驚いて振り向くと、
「ったく……余計な世話、焼かせるなよ……」
息を切らした多崎がいた。
その後ろには白石と田辺もいる。
「もー!真守っちのアホー!急に黙っていなくなるなよ~!」
「そうだよ、電話しても繋がらないし、心配しちゃったじゃん」
ま、まさかこいつら……。
「とんだ重労働だったぜ。この人ごみの中、探すの大変だったんだからな?」
僕の事を、探してたのか?
3人で祭りを堪能しているだろうと、勝手に思った自分が恥ずかしい。
それと同時に、思った。
もう、昔とは違うんだ。
まひろちゃんがいなくても僕は、1人ぼっちではないんだ……。
「……心配かけたみたいで、悪かった」
「うわ、近藤が珍しく素直だ」
「黙れ多崎」
1人じゃないと、思えた瞬間。
胸の奥が温かくて、口元が緩んで、自然と笑っていた。