甘く苦い、毒牙に蝕まれて
「まひろー?どしたー?急に黙り込んじゃって」
「あ、ううんっ!何でもない」
下駄箱で万桜と話してたら、聞き覚えのある声が私の耳に響いてきた。
「ほんっとに久しぶり~!夏休みの間、会えなくて寂しかったよ?やっぱさぁ、連絡先くらい交換しとこうよ~」
「だからウザいって!ベタベタするなっ!」
声のする方にゆっくり視線を移してみれば、嬉しそうな顔の泉川くんと、彼にまとわりつかれて迷惑そうな顔をした真守くんがいた。
あの2人って、仲良いのかな?
泉川くんは……私はちょっと苦手だけどな。
「万桜、早く教室行こっ……」
万桜の背中を押して、足早にその場を去ろうとした。
その時、泉川くんが私の方を見て「あっ」と声をあげた。
そして何故か、真守くんのそばを離れて、私の方に歩み寄ってきて腕を掴まれた。
「ちょーっと話したいんだけど、いい?」
「えっ」
「おい、まひろが困ってるだろ?離せよ」
すかさず万桜が私達の間に割って入って、私を庇うように泉川くんの前に立った。
「そんな警戒しないでよ、別にいじめたりしないから。少しだけまひろちゃんと話したいだけだよ?」
「わ、わかった、少しだけなら……万桜、先に行ってて?」
渋々といった感じで万桜は「わかった」と言って、心配そうにこちらを何度も振り返りながら離れていった。
真守くんの方はといえば、さっきから露骨に私から視線を逸らし続けている。
「ここじゃあれだから、移動しようか。こっち」
再び腕を掴まれ、廊下の隅へと連れて行かれた。