甘く苦い、毒牙に蝕まれて
いつもと変わらず接してくれた万桜に、少し安心しながらも、少し不安になる自分がいた。
あの告白を万桜は、なかった事にしようとしてるのだろうか。
だから、いつも通りなの?
複雑な気持ちのまま、放課後を迎えた。
「まひろ、俺、ちょっとだけ用があるから、下駄箱の所で待っててもらえる?」
「用って?」
「先生に呼び出しくらっててさ」
「わかった」
私は何も疑わず、教室を出て、下駄箱で上履きから靴に履き替えて万桜が来るのを待った。
しばらくすると、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「うん、絶対行きたい」
「ははっ!完全にハマってんじゃん」
「真守くん、こないだは珍しく楽しそうにはしゃいでたもんねー」
「でも近藤はほとんどアニソンしか歌ってなかったけどな」
「そう言う多崎はアイドルソングばっか熱唱してたけどな」
すごく、楽しそうな会話。
普通の男子高生の、何気ない日常の一コマだ。
私はつい俯いて、目を合わせないようにした。
でも……。
「あっ……」
私の横を通り過ぎようとした時、真守くんは私に気づいてしまった。
「まひろちゃん、久しぶり……」
「あー、真守っちの幼馴染ちゃんだ。なぁ、よかったら一緒にカラオケ来る?えーっと名前……笹川まひろちゃん、だよね?俺らさ、これからカラオケ行くんだけど、男ばっかじゃむさ苦しいしさー」
真守くん、カラオケ行くんだ……。
歌うのは苦手だからって、私が誘っても頑なに「行かない」って言ったくせに。