甘く苦い、毒牙に蝕まれて
万桜は立ち止まって、片手で頭をかいた後、ポツリとこう答えた。
「告白されたんだ。好きだから、付き合ってほしいって」
どうして、嫌な予感に限って当たってしまうんだろう。
宮原さん、本当に告白したんだ。
胸の中が不安で埋め尽くされていく。
それでも「大丈夫、きっと断った」と言い聞かせて自分を鼓舞した。
「返事は、したの?もちろん断ったよね?だって、まともに話した事ない相手となんか、付き合えるわけないよね」
「……」
きっと私は今、ちょっと最低な事を言ってる。
案の定、万桜は「はぁ」とため息をついた。
「断ってない」
「え?」
「返事は保留にしたよ。少し、考えたいから」
何よ、それ。
考えるってどういう事?
何で保留にするの?
何で断らなかったの?
考えたいって事は、宮原さんと付き合うかもしれないって事?
「あの子と付き合うの?」
「……」
「ねぇ、そうなの?宮原さんと付き合ったりなんかしないよねっ!?たいして仲良くないし、それに宮原さんってなんか腹黒そうだし」
「まひろっ……!」
声を荒げた万桜に私は驚いて、言葉を失う。
彼は眉を顰め、怒ったような表情で私を見ていた。
「冗談でも、そういう事は言うな。お前だって宮原さんとあまり話した事ないだろ?相手の事をよく知りもしないで悪く言うな」
自分が最低な事を言ってるのは、わかってる。
でも、それよりも。
今の私は「嫉妬」という嫌な感情に見舞われていた。
「何でっ……宮原さんを、庇うような事言うのっ……」
自分の爪が深く食い込むくらい、ギュッと手を握り締めた。