マネージャー日誌 ─青春の欠片

次の日の放課後、かえではHR後素早く荷物をまとめ、グラウンドに向かった。

ちなみに、本来野球部は朝練もあるのだが、体験入部のこの期間の朝練には1年生は出ないことになっている。

早足で靴を履き替えると部室棟に移動していると、

かえでの後ろから走ってくる選手達がどんどんかえでを抜かしていく。

かえでは走らなければいけないのかな、マネージャーは別にいいのかな……と悩みつつ小走りになる。

後ろから走ってきた瑞生がかえでの横に並んだ。

「杉本さん、移動はダッシュだよ」

険しい顔で瑞生はかえでに注意した。

マネージャーもダッシュなの!?と驚きつつもとにかく言われた通りダッシュで瑞生についていく。

3年生の瑞生は流石というか、部室棟までペースが全く落ちない。

部室棟についたころにはかえでは疲れ果てていた。まだ特に活動していないが。

膝に手をつき息を整えるかえでの横で、瑞生は制服のままタンクを2つ出してそこに水を入れ始めた。

かえでは慌てて瑞生の近くへ行き、

「このタンクなんですか?」

と聞いた。

「これはジャグとかキーパーって呼んでるんだけど、ここにスポーツドリンクを入れるの。選手が水分補給できるように、部室に来たら一番最初にやる事にしてるの」

と瑞生は説明した。

かえでは吹奏楽部だったのでジャグというものを見たことがなかったのだ。

かえではその大きさに驚いていた。

こんなに大きい容器に飲み物を入れてなくなるのかとさえ思っていた。

「これ、どのくらいの量入れるんですか……?」

「15Lずつだよ」

何食わぬ顔で瑞生はかえでの質問に答えている。

15!?かえでは内心では驚いて叫んでいた。

そんなかえでをよそに、瑞生はスポドリの粉を持ってきた。

「これ、正式入部したらやってもらうから見ててね」

といって袋から粉をザーッとジャグに入れ、柄を付け足したお玉で中を混ぜていく。

それはもう手際がよく、最後に少し味見をしてドリンクを作り終えた。

粉の量は目分量だったから適当なのかな、とかえでは思っていたのだが、

「飲んでみる?味変わると選手うるさいから濃さを覚えてね」

と言って紙コップに少しドリンクを入れかえでに渡した。



……うすい……というのが、かえでの感想だった。決して美味しいとは言い難い。こんなに薄める物なのか、とかえでは考えていた。

「あんまり濃いと甘くて気持ち悪くなってしまうから薄めに作るんだよ」

と瑞生が楓の顔を見て苦笑いしそう教えてくれた。

「じゃあグラウンドに運ぶのを手伝ってくれる?」

と言われたかえでは頷き、ジャグを持とうとしたが

「返事はちゃんとしなくちゃダメだよ」

と瑞生に言われてしまい、慌ててすいません、と謝った。

もう2回も注意された……とかえでは落ち込みそうになったが瑞生の、せーの、という声に反応し、ジャグを持ち上げる。

「うぇっ!?……な、すごい、重いですね……」

重すぎて、変な声が出た。腕がもげそうだ。

瑞生は何食わぬ顔で持っているが3年生になってもこれを涼しい顔で持てるようになるとは思えない。

二つのジャグとコップを運び終え、瑞生とかえではやっと着替え始める。

「今日は、仕事しながらいろいろ説明していくね」

と瑞生はニコリと笑った。

もう既に疲労困憊のかえでだったが返事はきちんとしなければならないという事を思い出し

「はい」

と一言返事を返した。
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