課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
「そう。
 あんたたち、全然こっちに気がつかなかったみたいだけど。

 話に夢中で。

 あの課長となんの話が合うんだろうなって思ったから、私も酔ってたけど、ぼんやり覚えてたのよ。

 夢かと思ってたんだけど、夢じゃなかったみたいね」

 そう言う礼子の胸許をつかんで、
「礼ちゃ~ん」
と泣きつく。

「そのとき、私、どんな話してた?
 なに言ってた?」

 記憶がないのよ~っ、と叫ぶ。

 どういう過程で、旅に出ることになったのか。
 雅喜も自分も思い出せないままだ。

「いやー、それがそう言われてもねー。
 なんか話してんなー、くらいしか」
と礼子は逃げ腰になりながら言う。

「しかし、そうなんだ。
 課長と旅行にね。

 へー。
 あの人でも、二人きりだと、なにか甘い言葉とか囁いてくれんの?」

「そんなのあるわけないじゃない。
 っていうか、成り行きで一緒に行っただけで、別になにもなかったんだから」

「えっ。
 二人で旅行に行って、なにもないとかあるの?

 普通、相手に気がなくても、なにかあるよね」
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