課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
 いいや、気持ちがいいくらいなにもなかった。

 それもまた、雅喜らしくていいと、真湖は思っていたのだが。

「課長は、余程、あんたに魅力を感じないようね」

 ……うう。

「私だったら、課長と旅行したら、結婚まで持ってくなー」

「えー。
 礼ちゃん、課長が好みなの?」

 んなわけないじゃんー、と手を振る。

「でも、あれだけの男前で、出世頭だよ。
 もったいないじゃん」

「礼ちゃん、結婚して、一日中、緊張してたい?」

「……それはやだけど。
 ってか、あんた、旅行中、ずっと緊張してたの?」

「いや、そんなこともないんだけど。
 なんかこう、麻痺してくるというか。

 あの目で、冷たいこと言われても、だんだん、ああそうですか、みたいになってきて。
 聞き流せるようになるというか」

「課長と結婚した人って、そんな風になるんだろうね」

 そうかもしれない。
 それで、そのうち、怒っても奥さんが言うこと聞かなくなって、課長がキレるんだな。

 妻にキレても無視される雅喜を想像し、あはは、と笑った。
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