課長の瞳で凍死します 〜Long Version〜
好きになってみましょうか?
「どうした?」
スマホを切ると、雅喜が訊いてきた。
慌てて出たきたので、心配して来てくれたようだ。
「おばあちゃんが施設から居なくなったみたいで」
と言うと、雅喜は眉をひそめる。
失踪した老人がそのまま見つからないこともよくあるからだろう。
「お父さんは自分たちが探すから大丈夫だって言うんですけど。
私、帰ってもいいですか?」
「すぐに帰れ。
俺も行ってやりたいんだが」
と雅喜が言ったとき、背後から声がした。
「行けばいいじゃないですか、五嶋課長。
もう今日は大丈夫ですよ。
ご婚約者のご家族のことですから、帰られても大丈夫だと思いますよ」
「……監査役」
相変わらず、人のいいおじいちゃんのような監査役がそう言ってくれる。
「ありがとうございます」
と雅喜は頭を下げた。
私が言っておきますから、と言って、監査役は職場に戻っていく。
その姿を見送りながら、雅喜は、
「今初めて婚約しといてよかったと思ったよ」
と言い出す。
今、初めてですか?
と突っ込みたかったが、今はそれどころではない。